うさぎの健康

『グリーフケア』知っていますか?

うさぎと暮らす最新号、88号(6月15日発行)と89号(9月14日発売)で連続して巻頭に「グリーフケア」を特集しています。グリーフとは一体どのようなものを指すのか、誌面では「動物医療グリーフケア」の第一人者である、阿部美奈子先生に詳しくお話しをお聞きしています。一部抜粋してご紹介します。

グリーフとは何?

大切なものが病気なったり、元気がない時に心配する気持ち、あるいは大切なものを亡くし気持ちが落ち込んでしまい、何もやる気が起きない。このような『悲嘆』のことを英語で『グリーフ』と言います。

私たちの日常にとって、うさぎは言わずもがな大切な存在です。そんなうさぎとの悲しいお別れが訪れることは、それまで飼い主さんにとって当たり前だった日常が失われることでもあります。朝起きて目の前にうさぎがいないという現実…。これは飼い主さんにとって強い悲しみとなります。グリーフは、自分にとっての重要な対象を喪失、あるいは喪失するかもしれないという想像をした時の心理状態をさします。

「ペットロス」はあくまでもペットを失ってからの現象ですが、今号でご紹介している『グリーフケア』とはうさぎが生前…元気なうちからできるケアのことで、グリーフが飼い主さん側だけに起きるのではなく、うさぎ側にもあることをご紹介しています。

阿部先生に取材していて、筆者自身、うさぎが病気になったりすると、治療を優先してうさぎに投薬や通院など、我慢を強いてしまっていることに「ハッと!」なりました。

つまりうさぎ側にどのようなグリーフが起きているかをおもんぱかることに欠けていたのです。飼い主さんもうさぎに元気でいてほしいからこそ、せっせと治療へ専念するわけですが、うさぎは病気を理解できません。飼い主さんの必死なケアもうさぎ側にとってストレスとなってしまうことがあるわけです。

パパとママが必死に強制給餌をしたり、ご飯に薬を混ぜて食べるかどうか必死に眺めている…こうした飼い主さんの変化をうさぎは敏感に感じ取ってしまいます。では飼い主さん側はどう接するべきなのでしょうか。元気なうちからできる、うさぎへのグリーフケアとは!?

うさぎのグリーフを軽減するために…

・テリトリーを守る
うさぎのテリトリーはおうちの中であり、ほかに変えようがありません。どんな時も命が守られる大事な場所であってほしい。うさぎとの暮らしを続ける うさぎが安全に感じられるような場を作ることが飼い主さんにしてほしいことです。

・自分のグリーフをリセット(不安を表に出さない)
飼い主さんがうさぎの健康状態や将来に不安を抱いたとしても、表情・声・話しかける内容が変わると、その変化をうさぎは察知してしまう。

・外出時のケア
うさぎは安心できる場所から一歩外へ出たらう緊張感を高めます。移動中のキャリーの中や病院で診察台に乗る時はうさぎ自身のにおいがついたタオル類や大好きな食べ物などを入れてあげるといった、うさぎが不安にならないような心配りが必要です。

・うさぎにストレスがかからない動物病院選び

元気な時から健康診断などで通院しておき、うさぎにストレスが少なくてすむ診察に慣れている獣医さんがいる病院を探すことはとても重要です。
獣医さんや動物看護師さんがうさぎという生体に理解があり、診察に慣れていること。すぐにキャリーを開けて診察しようとせず、床で診察をしたり、犬・猫と待合室や診察室が別にあるなど、配慮がされているとポイントが高いです。

・うさぎとの必然の出会いを大切に
飼い主さんは自分の心が求めている相手に出会っている。うさぎとの出会いは必然だったのです。出会った日からこの子と共に幸せな人生が始まります。
おうちに連れてきたとき時、心がワクワクし、うれしかった!その時の感情は忘れないようにしましょう。

・名前を呼ぶ
お迎えしたうさぎに名前には物語があります。うさぎへのいろんな考えを巡らせてからその名をつけると思います。毎日愛情をこめてその名前を呼びます。うさぎにしてみればその意味も由来を知らないわけですが、飼い主さんの声の響き、表情からうさぎは自分の安全な居場所であることを確認できます。

・記録からうさぎの性格を知る
日常のうさぎの様子は日記をつけて記録しておくとよいでしょう。成長記録はもちろん、「初めてこんなことしたよ」「うちのこの好きなこと・嫌いなこと」「得意なこと・苦手なこと」も記録することで家族で共有できたり、再確認することができます。
こうした記録からいずれうさぎが病気になった時、終末期(ターミナル期)にできるだけうさぎにとって嫌いなことは避けること、うさぎが好む形で元気になってもらおうと工夫してあげること、それがうさぎへのグリーフケアになります。

・飼い主さんが天敵にならない
うさぎが病気になった時、飼い主さんは直してあげたい、治療することやおうちで投薬することに集中しがちです。しかし、うさぎのために「病気を主役」にしないこと。
飼い主さんはうさぎにとって一番信頼できる仲間です。常にうさぎの見方でいること。安全なテリトリーを守り続けてあげましょう。

うさぎが元気なうちに、飼い主さんがこうしたうさぎ側のQOLを高めてあげることで、飼い主さんも心の整理がつくようになり、いずれお別れが来た時もうさぎと過ごした時間を整理することができ、グリーフ(ペットロス)を軽減することができるのです。

イラスト/LEICHAL

※誌面では飼い主さんがうさぎへ抱くグリーフの心理状態がどのように進行していくか、グリーフの専門家への相談の仕方などを取り上げております。ご興味をいだいた方は、本誌でぜひご覧ください!