飼いうさぎの体に流れる野生の血が引き起こす行動や、体のパーツの動きは自然界で生き残るための知恵がぎっしりと詰め込まれています。野生うさぎの生態を知ることは、すなわちペットとしてのうさぎの生態を知ること。さて、その体の仕組みとは?(うさぎと暮らすNO.8より)
目の働き
両目でカバーする視野は体の背後まで広がります。立体的に見る能力には欠けますが、広い視野をもつことが背後の危険を察知するのには有効なのです。左右の眼がそれぞれ別々の対象物を見ているのも特徴です。興味深いのは、眼が少し突出していること。これは、眼球を収めている眼窩(がんか)が大きく、その部分が盛り上がっているから。このため、うさぎは体を隠したくぼ地から、耳をたたみ潜望鏡のように眼だけを出し、周囲の様子を見ることができるのです。
視力
うさぎの視力はさほど良くありません。広範囲に周囲を見わたすことができる視力も、その眼に映る全体像はぼやけていると考えられています。ただし、大きな眼は夜の暗闇の中でも、わずかな光さえあれば物を見分けることは可能です。
歯の働き
哺乳類の歯根には無歯根と有歯根があり、無歯根は歯の根元が生涯伸び続けます。うさぎはすべての歯が無歯根で、上下の歯をすり合わせることにより摩滅させます。うさぎの門歯は胎児で10本、大人で6本。この門歯の発生メカニズムは大変興味深いものです。
盲腸
食べられた新鮮な植物は、食道、胃から小腸をへて盲腸にいたります。うさぎの盲腸は哺乳類の中で最も発達した臓器であり、盲腸の中で軟便が作られます。盲腸に送り込まれた食物は、腸内細菌により発酵し、無数の細菌を含み栄養に富んだ盲腸糞となり、食糞することによりふたたび体に取り込まれます。
ひげ
鼻の両脇に多数の長いひげが広がっています。うさぎの住みかである真っ暗なトンネル内では視覚が使えないので、目の上にある触毛で、手探りならぬ、ひげ探りをするのです。両側の口ひげの長さを合わせると胴体の幅とほぼ同じのため、トンネル内を自分の体が通過できるかどうか判断するのにも使われると思われます。
しっぽ
アナウサギは敵から逃げる時、尾の下面の白い毛を目立たせながら跳ねます。この行動は、敵に自分の存在をより目立たせる効果があります。スタンピングなど警戒音を発し仲間にその危険を知らせる行動も、かえってその存在が目立つことになります。これらの利他的にみえる行動が、自らを犠牲にしても、仲間を敵の手から逃れさせようとすることにつながっているのです。
冬に白く換毛する
ノウサギの一部は冬に毛が白く換毛します。積雪地帯に住むノウサギは捕まる可能性が高く、身を守るために雪と同じ色に同化しますが、このメカニズムは謎の部分もあります。また白くならずとも、冬毛と夏毛では違いが見られます。
皮膚が弱い
うさぎの皮膚はとても弱く、指でひっぱるだけで多くの毛が抜けますが、これも敵から間一髪で逃げおおせるという効果があるかもしれません。また、負傷した傷がきわめて早く治癒するともいわれています。
うさぎの耳はなぜ長い
うさぎの特徴として思い浮かべるのは、長い耳。特にノウサギの耳はとても長く、これは、体を隠すことが出来ない草原で、外敵の足音を探知するために必然的に長くなったと思われます。一方アナウサギの耳はノウサギに比べると短く、危険を察知したときに逃げ込める巣穴があり、また穴の中で生活するのに邪魔にならないよう、最適の長さになっていったと考えられています。
跳ねるための骨構造
うさぎの前足は骨の構造から、前後にしか動かず横揺れしません。これは跳躍を終えて着地するときに受ける衝撃に対して、前足全体を強化する機能があるとされています。跳躍の際は、両前足を前後に着地させた勢いで体を丸め、両後ろ足を前足の前方に着地させます。このような跳躍をするのはうさぎだけです。
うさぎの逃げ足
最高時速約80キロを出し、時速約50キロを持続するジャックウサギが一番早く走ると観測されています。他の足の速い動物と比較すると、コヨーテが約64キロ、狼が約60キロ。ノウサギと犬科はほぼ同じ速度とみられます。隠れ場所の少ない平坦な生息地には体が大きい種が分布し、敵に襲われた時は足の速さを活かして逃走します。それに対しアナウサギは平均時速約36キロ。彼らは逃げるスピードはノウサギに比べ遅いですが、隠れ場所が多いのです。
トップスピードを生みだすために
うさぎの走る速度を高めているのは、骨格が軽く体重を軽量化していること、心臓が強力なポンプとなり筋肉に酸素を送り込むこと、また、鼻孔を通じて運ばれる空気の量が多く、肺に酸素を効率よく送りこむことができるためと考えられています。
止め足
うさぎは活動を終えて休息する前に、自分の足跡を戻ってから、突然数メートルもの距離を跳ねて別方向へ進みます。そして少し進行してからまたその足跡をたどるように戻ることを数回繰り返します。その後、足跡からポンと跳躍して近くにひそみます。これを「止め足」といいます。
伏せの姿勢
草むらに身を隠すために足を体の内側に折込み、耳も後に倒しうずくまった姿勢をとります。伏せの姿勢時は、眼が体の中で最も高い位置にきています。野生では、空を飛ぶ大きな鳥に怯えてうずくまることも知られており、これは、ワシやタカが天敵であることを証明しています。
外敵に襲われないためには
被捕食者であるうさぎは身を守るため感覚器官を総動員します。わずかな物音も耳で察知し、眼で姿を発見するか、臭いで探知します。休息中も眼を細く開けていて警戒を怠りません。近くに外敵がいたとしても、すぐには逃げ出しません。前足を折り曲げて、体を低くしてうずくまります。通常は1分間120回の心拍数を半分にし、外敵が接近したら心拍数を3倍にあげ最高速度で逃げ出します。
まとめ
うさぎの素晴らしい跳躍力、特殊な前歯の構造、二種類の糞は、哺乳類の中で独自の進化を歩んできたことを示しています。うさぎが突然この世に現われ、月からやってきたとされる由縁でもあります。不思議な体も、食物連鎖の最下層で生き残っていくために、自然淘汰で必然的に発達してきた構造といえるのです。