大切な家族であるうさぎを失った悲しみから立ち直るのは、たやすいことではありませんが、暗闇に落ちてしまったとき、少しでも思い出してほしいのが、同じ思いをしている人はたくさんいる、あなたのようなケースはまれではないということです。今回はそんな方々に向けて、気持ちを少しでも楽にしてさしあげられればと願って開催した講習です。
悲しみが癒えない飼い主さんからの声に中山ますみ先生の経験をふまえながらお話しいただきました。同様の悩みがある方に向けてだけではなく、お月さまにいるうさぎを温かく思い出したり、今いるうさぎとの時間がもっと愛おしく思える機会になればと思います。
講師/中山ますみ先生
東京都杉並区のうさぎ専門店「らびっとわぁるど」オーナー。海外での動物研究の経験を生かし、うさぎの性格や状態に合わせた飼育相談や預かりのトレーニングを行っている。一般社団法人日本アニマルウェルスネス協会認定ホリスティックカウンセラーの資格を取得。
突然のお別れ
うさぎがいなくなってしまった時、最初はどうすればいいのかわかりませんでした。インターネットを見たり、うさぎと暮らすの読者アンケートでペットロスや、うさぎを見送った時とかについての特集を組んでほしいという要望を書きました。今も思い出すとこみ上げるものがあります。
私の場合は本当に突然のお別れだったので、何が起きたのか理解できませんでした。一番最初のコは私の腕の中でお別れできたのですが、今回は私がいないときに旅立ってしまって…。食欲が急に落ちるような、そうなることが覚悟をする合図もなかったので…。
誰でもうさぎとのお別れは突然やってくるもので、覚悟しておかなくてはと、頭でわかってはいますよね。でもいざそうなった時、なかなか受け入れられないものです。そしていくら時間がたっても、何かの拍子でそのコを思い出すと、一気に悲しみがあふれてきます。辛い気持ちを隠す必要はないし、自分基準で考えていい、1人で考え込まずに人に話すということは大切なことです。人であれ、動物であれ、大切な家族を失う経験は誰でも通る道で、分かり合えることですからね。
そしてできるだけ生前から周りにお友達を作って、うさぎと暮らしているという情報は、外に出しておくこと。すると亡くなった時、辛いことではありますがそれを仲間に知らせるという行為を通じて、自分の中に自覚が芽生えてきます。
うさぎが亡くなったことを認識して、自分の悲しみ、心のケアは自分できちんと消化する。それができないとペットロスに苦しんでしまう事になりがちです。せっかく家族や、周りのうさぎの友達がいろいろ励ましてくれたとしても、自分自身の解釈がひねくれてしまっていると、ただわずらわしいことに思えてしまいますからね。
亡くなってから注文していたうちの子の写真入りのグッズが届きました。少し気持ちが落ち着いてきて仔うさぎの時からの写真を整理して写真集を作ったりしました。お骨は49日過ぎて、実家のお墓に入れてくれるというので手渡してきて。お骨が目の前からなくなるとさびしいけれど、一つ区切りがついた気がしました。
見送ることができなかった時
私はうさぎと関わる仕事をし始めた当初、うさぎを自分の手で抱っこして看取りたいと思っていたのですが、ふとこれは私一人の感情であって、うさぎたちはそう思っているとは限らない、彼らは一人で逝きたいのかもしれないし、私に抱かれて逝きたいのか、それは彼らが決めることで、私が決めることではないと思ったんです。主役はうさぎなので、なるべく裏方に徹し、そのコの自由にさせようと考えるようになりました。
これまで看とってきたコたちでいえば、私にさよならをするタイミングはそのコが選んでいるように感じました。私も体験しているし、お店のお客さんからも聞く話なのですが、死期が迫っていて、飼い主さんが帰宅して一言二言何か会話をしてから亡くなるというケースが決して少なくないのです。
また、亡くなる日は、飼い主さんがなんとなく予感めいたものを感じて一緒に過ごす場合と、気のせいかなと思っていつも通りに過ごす場合がありますが、どちらもうさぎが選んでいるタイミングだと思うんですよね。
今までありがとう
これまで、たくさんのうさぎと接してきて、うさぎの最期を見送ることができたケースもあれば、見送ることができなかったケースがありました。見送ることができたパターンでは、月へ行く準備をはじめた、と思ったら、まずこのコたちへ『今までありがとう』とお礼を言います。
そして、うさぎにとっては生まれてきて初めて経験する死という行為。私がしてあげられることは、これからあなたの体はこうなっていくよ、次はこうなるけど大丈夫だよ、もうちょっと我慢すれば楽になるよ、と教えてあげること―。苦しみを取り除いてあげることはできないけれど、気持ちを安心させてあげることはできるかもしれない。そんな気持ちでいつも見送っています。
見送ることが出来なかったケースでは、ほとんどの飼い主さんがその原因を探し、自分を責めてしまいますよね。だけど、私は一切そうする必要はないと考えています。うさぎにしても大好きな飼い主さんが、自分を責めて苦しんでいる姿は見たくないはず…。
私はいつも息絶えたうさぎの耳元で『早く戻ってきてね』って声をかけるんです。あなたはもう自由でいろんなところに行ける状態だから、楽しいところに出かけて、またママのところに戻ってきてねっていう伝えるのです。
うさぎが亡くなるということは、飼い主さんがとても成長できる経験なんですよね。一つの命をまっとうする姿をきちんと見せてくれるのは、ものすごいエネルギーだし、命ある生物にとっては重要なことだし、自分たちが死ぬ前に、そうした姿を見せてくれる事は、何て尊いことなのだろうと感じています。
うちの子は結果的には病院で亡くなりましたが、自宅にいた方がよかったのではという気持ちがありました。でも主人に言われたのは自宅で亡くなっていたら、病院に行けば助かっていたかもしれない、という後悔の念が残って、どちらでも苦しいのではないか、と言われました。病院で手を尽くしてもらったけれど、結果的にだめだったのだと納得するようにしました。手術をしない方がよかったのかな、とも考えたり…。気持ちはいろいろと揺れました。
初めて迎えたうさぎだと特にわからないことだらけで、獣医さんの指示任せになってしまう事が多いですよね。最期が近くなったと思える時、病院に行くか、自宅にいるかという選択は、悩むことですし、亡くなってしまうと、みなさん後にひきずるケースが多いようですね。私は最期の場所の選択肢で後悔する必要はなく、どちらでもよいのではないかと思いますよ。一番大切なのは自分がどうしたかだと思うのです。獣医さんの診察や言葉がほしいというのであれば、病院に行けばいい。自宅で看撮りたいとうのではあれば、そうすればいいと考えています。どういう結果になっても後悔する必要はないと思うのです。
うさぎを亡くした直後は、人から『もう十分だよ、たくさん介護して十分やったよ』と言われても、どこか自分の悪いところを探して責めてしまいます。
それは自分の気持ちの持っていき場がないからなのです。うさぎがいなくなった、空いた穴を埋めるためにそれで埋めようとするんです。納得する材料として自分を責めるのが一番手っ取り早いのです…。
それが間違ったこととは言いませんが、うさぎがお月さまへ帰ってしまったとき、飼い主さんがその悲しみをどのように受けとめるかという点は、それまでうさぎとの日常において、どのような関係性を築いてきたかによると思います。
もちろん、家族ではあるのだけど、うさぎという『動物の家族』であって、人間ではない。そこの部分をきちんと心の中にとどめておかないといけないと思うのです。ある一定の距離を保つことも必要で、客観的に見ることで、うさぎの素晴らしさがわかりやすくなるんです。
うさぎに対して、過度にご自分の気持ちを投影するようなかわいがり方は、本来の愛情とは違うように思います。
おっしゃるように、うさぎに夢中になるあまり、うさぎに自己投影してしまうんですよね。ペットへの接し方は自分の鏡だと言いますものね。でも、客観的にそれがわかるようになったのは今だから言えることかもしれません。
ペットであるうさぎに死が訪れるという事は頭ではわかっていたんです。でも、この経験を通じて、必ず起こりうることとして、受け入れなくてはいけないなと思うようになりました。悔いのある過ごし方はしたくないな…と。
ペットロスにはパターンがある
動物は死ぬことに対して抗わないんで、すごく純粋に、スムーズに死を受け入れる術を持っているんです。ただ、飼い主さんから見たら、うさぎが亡くなる時の体の変化などを見た時、やはりショックを受けてしまい、ペットロスに陥ってしまう場合もあると思うんです。
ペットロスにはいろいろとパターンがあるんです。うさぎを辛くて見ることができなくなってしまう場合と、うさぎを見るのは平気だけれど、ショックから立ち直れない場合もあります。
飼い主さんが、少し発想を切り替えて、うさぎとの距離感を図りながらと共に暮らし、最期を迎えた時もそれまでの日々を、大切な人生の財産として生きていく、そして、また次のコを迎えた場合は、先代のコの経験を生かすことができれば、お月さまにいったうさぎも飼い主さんもとても幸せになれますよね。
新しいうさぎとの出会い
うさぎがいなくなって、さまざまな葛藤がありましたが、いろんな方の支えや励ましで、気持ちを切り替えることができ、半年してから次のコを迎えました。似たコをお迎えすると比べてしまうと思い、それは次のコにとっていけないことだと思ったので、性別もカラーも全く違うコを選びました。今、癒される日々を送っています。
身代わりにしてしまうケースも確かにありますね。そういう方は、自分で気がつかない方もいらっしゃいます。そして、新しいコを前のコと比較して否定すること、それは一番やってはいけないことですね。
私は15年もの間、うさぎと一緒に過ごしてきて、それは一言では語りつくせないくらい、とても楽しく充実した日々でした。性格が三様で、いろんなことを教えてくれました。今はさびしい気持ちでいっぱいですが、貴重な経験を大切にしていきたいと思っています。
そうですね。私たちとお家で日々暮らす中で、うさぎが見せる新しい面白さ、かわいらしさ、楽しさ。それは別の動物にはない感覚で、そこがいいところだと思いませんか?