奥深いうさぎの世界…。うさぎを愛する皆さまでも、まだまだ知らないことがあるかも?! うさぎに関する豆知識をご紹介。今回のテーマは「世界各国に伝わるうさぎが登場する民話」をご紹介します。一部内容が不明瞭でオチがないものもあります。少し残酷なストーリーもあるので苦手な方はスルーして下さい。
世界のウサギとカメ
世界各国で語り継がれる有名すぎる「うさぎとカメ」。紀元前6世紀ごろ、古代ギリシャでイソップが執筆した「イソップ物語」が原作です。わかりやすい登場人物にわかりやすいストーリーですが、不思議なことに世界各国で共通認識のストーリーではありません。多くは真面目に走ったカメが勝ち、怠けたウサギは負けてしまうという、努力することの大切さを説いているのですが、教訓が異なる国もあるのです。
例えばアフリカでは「カメとウサギ」にタイトルが変わっており、足が遅いことをウサギにからかわれたカメは、悔しい気持ちをバネに作戦を練り、要所要所に親戚のカメを配置してから勝負に挑みます。カメたちがウサギを翻弄し、ウサギを負かすというストーリーになっています。つまり知恵を使って相手に勝とうということが教訓になっています。
また、インドでは、日本と同様のストーリーで、ウサギは昼寝をしてカメに敗れてしまいますが、悪いのはカメの方だというお話しです。どうして眠ってしまったウサギを起こしてあげなかったのか、つまり仲間・友情を大切にという教訓を説いています。
ちなみに日本の現代の子どもたちは、このストーリーを読んで、『真面目にコツコツと生きるものが最後には勝つ』という部分だけでなく「ウサギはカメと一緒にゴールしようと思っていたが、カメが来るまで休んでいたら、寝てしまったのでは」あるいは「カメはうさぎが寝ているのを知らなかったのでは」といった感想を抱き、相手を思う優しさ、思いやりも学んでいます。題材から子どもたちが抱く感想は自由な発想でよいと思いますが…。
人々の口述で伝来していくため変化してきたのだと思いますが、その内容と教訓はお国柄ということもあるのかもしれません。
アフリカの民話
動物と共存してきたアフリカではいろんな動物が登場する民話が数々あります。ハイエナなどがウサギにかつがれるストーリーなど、うさぎは『賢さ」や『トリックスター(いたずら好き)』として表現されていることが多いようです。
うぬぼれのむくい
ノウサギは、ライオンから殺した動物の肉を干す仕事をもらっていました。しかしライオンの留守中に肉を奪いに来るハイエナたちに困り果て、落とし穴の罠を仕掛けますが、落ちたのはライオンでした。
ノウサギはライオンの皮を剝(は)ぐと中に草を詰め、首に縄をつけておき、やってきたハイエナたちに、好きなだけ肉を取らせると、その中の一匹に「あんたには首飾りがよく似合うよ」と話しかけます。
おだてられてうぬぼれた(調子に乗っている)ハイエナの首に縄を巻き付け、ノウサギは「ライオンが帰ってくるぞ」と叫びます。ハイエナたちは大慌てで逃げて行きますが、縄に結んだライオンもついてきます。
やっとのことでハイエナたちは穴に隠れますが、入り口でライオンが動かないので、出るに出られず、ついに飢えて死んでしまいます。
ゾウのおしりを切る
ある日ノウサギが踊っていると、ゾウがやってきました。「あんたは身体が大きいから、動きが鈍すぎる。そのお尻からちょっと肉を切れば、もっとうまく踊れるだろうよ」。
ノウサギはこう言うと、ナイフで尻の肉を切り取って、去ってしまいました。動けなくなったゾウは、通りがかったブッシュバック(ウシ科、羚羊〈れいよう〉の一種)に、尻の肉を取り返すよう頼みます。
ノウサギは、やってきたブッシュバックにゾウの尻の肉を食べさせ、今からこの動物を取りに行こうと誘います。そして待ち伏せさせたブッシュバックの上から大きな岩を転がして殺してしまいます。
ノウサギはゾウがよこした動物をやっつけますが、最後にやってきたヒョウは策略に引っかからず、逆にノウサギを追い立てたため、川に浸かってしまったノウサギはずぶ濡れになってしまい…。どうなる!? ゾウとノウサギ!?
ウサギとリス
もともとノウサギには、立派なしっぽがありました。ノウサギとリスは義兄弟で、いつも仲良くしていましたが、ある日うさぎのしっぽをうらやんだリスが、ノウサギにしっぽを貸してほしいと頼みます。
最初は断っていたノウサギでしたが、何度も頼むリスに根負けして、とうとう承諾してしまいます。
ところが、しっぽを家に持って帰ったリスは、8日で返すと約束したにもかかわらず、家族に聞かれると、こう言います。「ぼくの義兄弟がくれたんだ」
11日目、心配になったノウサギがリスの家に来てみると、リスはノウサギの姿を見るやいなや、素早く木に飛びついてよじ登り、地上のノウサギを心の底から笑いました。ノウサギはカンカンに怒りますが、「そんなに怒るのなら、この木に登って取り返せばいい」というリスはあざけります。
しっぽがないことを悲観したノウサギは、それからひとり丘の岩場で暮らすようになりました。
ーいたずらの多いノウサギも、たまにはやり込められることがあるというお話しです。
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なお、南部アフリカに伝わる民話を祖国であるビヴァリー・ナイドゥーさんが書き起こした児童文学「ノウサギのムトゥラ: 南部アフリカのむかしばなし」が岩崎書店より発行されています。賢くていたずら好きのノウサギ・ムトゥラがあの手この手で自分より大きくて強い動物(カバ、ゾウ、ライオンなど)を出し抜く痛快ストーリーが収録されています。
インドの民話
仏教説話 『ジャータカ』「兎王本庄生譚(とおうほんしょうたん)」
うさぎがお月さまにいるという信仰の由来はインドの説教仏話「ジャータカ神話」の物語です。ブッダの物語を集めて紀元前にできたものです。
ある日森に住むキツネと、サルと、うさぎのもとへ、帝釈天が老夫に姿を変えてやってきます。そして3匹に食を求めます。
するとキツネは川へ行って魚を捕ってきました。サルは木に登って木の実をもぎ、花を摘んできました。ところが、うさぎにはそのような能力がないので、何も手に入れられません。そこでうさぎは「どうぞ私を食べてください」と言いつつ、焚き火に身を投じて、焼け死んでしまいました。
うさぎの心根を讃えた帝釈天は、その身を救い、月に蘇らせます。
ジャータカはインド以外に、ミャンマー、インドネシア、中央アジア、中国、日本などに広く分布しています。
メキシコの民話
「うさぎのみみはなぜながい」
体が小さく、いつも森の強い獣たちにいじめられてばかりのウサギは「体を大きくしてほしい」と神様へお願いしました。神様はウサギにトラとワニとサルの皮をはいで持って来たら、ウサギの願いを叶えることを約束しました。
ウサギは勇気を出して森の中へ行き、トラ、ワニ、サルを順に知恵を絞って次々と倒し、皮を剥がして神様の元へ戻ります。ところが、神様は森の強い獣たちを倒してきた、賢いウサギの体を大きくしませんでした。「恐ろしいことになるから」と代わりに耳を長くしたのです。
神様から与えられた難しい試練を乗り越えたのに、約束をかなえてもらえません。
ウサギにとっては少し理不尽ですが、ウサギの耳が長くなった理由がわかり、小さくか弱いウサギがトラなどの大きく強い獣たちを倒すストーリーです。
「うさぎのみみはなぜながい 北川 民次 文・絵(福音館書店)」。現在も入手可能です。https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=6
世界の民話に伝わるうさぎは、知恵を使っていたずらなどを駆使して他動物をやっつけたるものばかり…と思いきや、王の召使いとして人々との仲介者となったり、新しい作物や技術を広めて人々にもたらす英雄として活躍するストーリーもあるようで(資料が見つからず紹介できず…)、さまざまな顔を持っています。
次回も世界の民話を紹介します。
参考文献:『百分の一科事典・ウサギ』(小学館文庫)