うさぎの基本

盲腸糞の不思議。パワーの秘密

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うさぎの食糞シーンを初めて見たときは驚いた方もいることでしょう。うさぎはどうして自ら産出したウンチを食べるのかー。そのわけは本来粗食であるうさぎにとって盲腸糞が大切な栄養源であるからなのですが、盲腸糞を作り出すウサギの腸は実にミステリアスです。今回はうさぎの盲腸糞について、国内でウサギ研究を唯一行う、山田文雄博士の原稿を縮小版でご紹介いたします(うさぎと暮らすNo.72より)。

※本誌では「うさぎ」はひらがな表記ですが、学術的には「ウサギ」であるため、今回はウサギで表記いたします。

はじめに

私たちのおなかの中の大腸には、多種多様で大量の腸内細菌(微生物)が住んでいます。「腸内フローラ、腸内細菌叢(さいきんそう)、あるいは「善玉菌・悪玉菌」という言葉を聞かれたことがあると思います。私たちの「うんち(便)」にも、この腸内細菌たちが多く含まれていることをご存知と思います。
この腸内細菌たちは、私たちの食べ物を分解し、消化吸収するのに役立っているだけでなく、アレルギーやウィルス感染への防御、がん予防や精神状態にも影響を与えていて、近年注目されています。大腸が「第二の脳」ともよばれています。腸内細菌たちは、私たちの健康に大いに役立っているのです。

ではウサギにおいてはどうなのでしょうか。ウサギは草食動物であり、腸内環境を快調にすることが健康維持に不可欠であることはみなさんよくご存じであると思います。

下記の表のように草食性の野生動物は、植物だけを餌にして、食糞をしてエネルギーを得ています。しかし、自然界に大量に存在する植物ですが、その多くを占める植物繊維質(主成分のセルロースで炭水化物)は固くて分解・消化・吸収できず、また必要なタンパク質を植物だけからは得られないという問題をかかえています。これを解決する方法として、草食性動物の消化管に微生物を住まわせることによって、微生物に細胞壁を分解してもらい、また微生物自体や微生物の作る栄養分を消化吸収するという方法を進化させました。昆虫から哺乳類に至るまでさまざまな動物が植物を栄養にするために微生物を使っています。
草食性哺乳類では、微生物発酵の場所が消化管の前方(前腸、胃)で行うか、後方(後腸、盲腸や結腸)で行うか、前腸の場合に反芻するか、後腸の場合に糞食するかなど動物によって異なります。

ウサギは、単位体重あたりの餌の消費量が最も少なく、省エネ型の採食と栄養摂取の戦略を持っている動物といえます。草食性哺乳類は表面的には植物だけを餌にしているように思えますが、実のところは「草食性+微生物食性」の動物なのです。

盲腸糞が生み出される仕組み

うさぎの消化器官 イラスト/<+R>ぷらすらびっと

ウサギの糞には、「盲腸糞と「硬糞」の2種類があります。ウサギは「糞食」をする動物で、これは、肛門から排出された糞を食べることです。盲腸糞を食べることを「軟糞食(あるいは盲腸発酵物食、caecotrophy)」、硬糞を食べることを「硬糞食(coprophagy)」とよびます。いずれの糞食も、ウサギにとって体に取り入れる栄養効率を高め、野外で採食するときの餌の種類の拡大や低品質な餌条件でも生存を可能にするためと考えられます。
ウサギでは、食べた植物は口で咀嚼され、歯で細かくすりつぶされて胃に届き、胃の消化液で糖質やタンパク質が消化・吸収されます。

ツヤツヤの盲腸糞

植物片はその後十二指腸に移行し、消化しやすい栄養素の糖質、ビタミン、タンパク質などが消化液で分解吸収されます。小腸で消化されない植物繊維は盲腸と結腸の境界の器官(正円小嚢、せいえんしょうのう)に送られ、不必要だとして直ちに結腸に送られ、丸い糞(硬糞)として肛門から排出されます。一方、細かい植物繊維は盲腸に運ばれて、ここに住む微生物のちからで発酵して盲腸糞が作られ、やがて肛門から排出され、肛門に口をつけて直接食べます。
小腸と盲腸、そして結腸の合流地点の正円小嚢付近での植物繊維の選択は「結腸分離機構」と呼ばれます。ここでは、発酵に必要な小さな植物繊維が結腸内に移行してしまった場合は逆行させて盲腸内に回収することも行います。また、植物繊維の選別や回収だけでなく、盲腸内に多くの腸内細菌を定着させるために、通過する植物繊維から腸内細菌を分離・回収することも行います。
「軟糞食」は、盲腸で作られた発酵物を、盲腸以降の消化管の短さでは栄養の消化吸収が十分に行われないために、一旦体外に排出して再度食べ直すことによって、胃や小腸から栄養分を消化吸収することを意味します。

一方、「硬糞食」とは、排出された大きな繊維質で構成される硬糞を食べることです。実際には、地面などに落ちている硬糞を食べます。

おうちのうさぎ食糞中

ウサギの盲腸糞と硬糞との違い

では盲腸糞にはどのような栄養が含まれているのでしょうか。

実は繊維質が少ない一方で、大腸内で増殖した微生物自体のタンパク質や、微生物が合成したビタミンB群、ビタミンKなどの栄養分や水分が豊富に含まれています。これらはウサギにとって必須の栄養分で、植物のもだと得られません。もしも自然下で盲腸糞を食べられないようにされたウサギがいたとしたら、必要な栄養分が得られないために、健康障害を起こし、やがて死亡します。

野ウサギの食糞


ウサギの盲腸糞食は、一日のうちでは早朝から午前中に排出され、採食後4時間程度とされます。盲腸糞の排出中は、硬糞の排出はありません。盲腸糞は結腸で分泌される粘膜で覆われており、ブドウの房のように排出され、ウサギは咀嚼せずに摂取します。このため、胃の中には、盲腸糞がそのままの形で観察することができます。
一方、硬糞食を行うのは、繊維質が少ない餌ばかりの時に主に起こすと考えられます。ウサギは餌や水が得られないときに、盲腸糞や硬糞を食べ、体内を再循環させることによって1週間程度は生きながらえるといわれます。微生物の餌となる盲腸糞や硬糞を消化管に送って微生物を増殖させ、その栄養分で生きながらえているといえます。

みなさんのウサギはどうですか?

みなさんのおうちのウサギは糞食されますか? 中には糞食しないウサギもいると聞きます。餌の栄養が良くなってきたためでしょうか、また老齢化して肛門に口がつかなくなってきたためでしょうか。
ウサギが排出する糞や糞食の様子を注意してみることで、ウサギが健康に生活しているかどうかがわかると思います。この機会に、腸内細菌(微生物)のことや消化吸収のしくみについて、私たち人間のことも再度考えてみてはと思います。それぞれの健康の維持増進のために、より良い食生活や運動などを心がける機会になればと思います。

山田文雄博士…
専門は哺乳類保全生態学。農学博士(ウサギ博士)。現在は、国立研究開発法人森林総合研究所の非常勤研究員。著書に『日本の外来哺乳類 管理戦略と生態系保全』(東京大学出版会、2011年、共編著)、『ウサギ学 隠れることと逃げることの生物学』(2017年、東京大学出版会)、『森林と野生動物』(共立出版、2019年、分担執筆)など。論文に野ウサギや、アマミノクロウサギなど希少哺乳類、野生化アナウサギなど外来哺乳類などに関して多数。