「ホリスティック医療」という言葉を聞いたことがある方も少なくないでしょう。では、「ホリスティック」とはいったい何でしょうか。うさぎはすでに環境の変化を感じ取りやすい動物なので特にホリスティックを生かしたケアを知っておくと、心身を穏やかにし、より快適な暮らしを提供してあげることができるでしょう。また飼い主さんにとっても同様です。
書籍『うさぎと暮らす ホリスティックケア』(マガジンランド刊/おくだひろこ著)より、ホリスティック医療について抜粋してご紹介します。
ホリスティックの概念
ホリスティック医療とは、古代ギリシャ語の「Holos(全体)」が語源で、病気になったからだの一部分を診るのではなく、全身を全体的、総合的に診る医療のことを言います。
具体的には、現在の医療の主流である現代西洋医学の他の医療、例えば鍼灸や漢方、ハーブ療法、アロマテラピー、バッチフラワーレメディ、ホメオパシーなどの代替医療法全てを言います。
病気自体だけを治すのではなく、病気によって崩れたからだのバランスを取り戻し、ストレスを緩和することで精神面を前向きにしていき、結果的にからだ本来が持つ自然治癒力のパワーを引き出し自らの力で元気になっていくことを目指すものです。
これらの治療方法は、残念ながら治療の効果を科学的に証明することはできません。そのためにこのような治療法があることすら日本ではあまり知られていないのが現状です。
代替医療
代替医療とは、現代西洋医学以外のすべての医療のことをひとつにまとめる言い方としてこのように呼ばれています。
アメリカでは「alternative medicine(代替医学)」、ヨーロッパでは「complementary medicine(補完医学)」と呼ばれ、日本では補完・代替医療という言い方もします。
動物の治療で実際に使われている代替医療の主な種類
- 『伝統医学』
<インド>…アーユルヴェーダ
<中医学>…鍼・灸、漢方薬(中医学とは、中国伝統医学の略称)
<ヨーロッパ>…ホメオパシー、自然療法、アロマテラピー - 『手を使った方法』
指圧、マッサージ、Tタッチ - 『食事療法』
ハーブ療法、健康補助食品(サプリメント)、水の改善
病気は早期発見、早期治療
獣医学とホリスティック
日本において、これらホリスティック医療を獣医分野に取り入れ、治療に役立てる病院は全国でも数が限られています。日本の獣医学は20世紀に急速に発達した西洋医学が主流で、獣医師を目指すための大学でもホリスティック医療の教育は導入されていません。
しかし、欧米では1960年代より、ホリスティックのコンセプトが根付き、現在に至ります。アメリカの獣医学の教育現場では、ホリスティック医療をカリキュラムに導入する動きが活発化し、イギリスでは国家による代替医療の研究機関が設立されています。
ホリスティック医療ができること
現在、ホリスティック医療を動物治療に取り入れている病院では、西洋医学のアプローチだけでなく、代替医療としての漢方、鍼灸、ホメオパシーなど治療の選択の幅を広げ、からだ全体から自然治癒力を引き出し元気にしていく治療が行われています(統合医療)。 西洋医学は、病気の特定をするため、検査をして体内の異常を見つけ出します。また異常が見つからない場合は、可能性のある病気を消去法で絞りこんでいく方法が取られることもあります。
ホリスティック医療は、異常を探すのではなく、からだ全体のバランスを診ながら個体の持つ自然治癒力を最大限に引き出す治療を施します。自然治癒力を高めるための治療は、何度も繰り返し行うことで、崩れたからだのバランスを元に戻していくのです。
早期発見、早期治療
日本での治療は、西洋医学が主流です。ひとつの症状が、また新たな病気を呼び、複合的、慢性的な病気を抱える場合、完治するのは難しく、西洋医学の限界を宣告されるケースもあるでしょう。そのため、パートナーが苦しむ姿を見るのが辛くて、最後の頼みの綱として西洋医学以外の治療を求め、ホリスティックの門を叩くケースも少なくありません。
どのような治療法を選択しようとも、「早期発見、早期治療」のキーワードは、常に肝に銘じておかなければいけない大切な言葉です。たとえ代替医療で元気に回復するケースがあったとしても、門を叩くのが遅すぎたらどんな手段も間に合わないこともあるのです。奇跡が起こるかもしれない、そのような過度の期待は禁物です。パートナーが生きたいという気持ちを大切に、病気と上手に付き合いながら、前向きな気持ちで乗り越えていきましょう。
ホリスティックと西洋医学の比較
見つけ出される病気が多様化、複合化する現代において、ホリスティック医療を専門とする現代において、ホリスティック医療を専門とする獣医師は、西洋医学に精通しながらも西洋医学のみの治療法に限界を感じ、代替医療を取り入れ、動物の病気の本質を根本から見つめ、自然治癒力を高めていく治療にあたっています。
具体的にどのような違いがあるのか以下に簡単にまとめてみましょう。
西洋医学 | ホリスティック | |
治療手順 | 問診→診察→検査→インフォームドコンセント※→治療 | 問診→診察→検査→インフォームドコンセント※→治療 |
重点項目 | ●検査 検査により得られる結果で病名をつける。同じ病名の時には同じ薬を使う。 | ●問診 問診により得られる情報(生活環境・性格・体調の変化)で、病名の特定の前に個々のケースに合わせて、今何をすべきかを判断する。そのため同じ病名でも生体により治療が異なる。 |
治療方法 | 病気の原因を排除することを目的とする。 | 生体の自然治癒力を高めることを目的とする。 |
治療薬 | ●即効性がある 熱や痛みをとる、菌を殺すというような、症状を一つ一つ打ち消す薬が処方される。 | ●即効性はなし 熱があるから熱を下げるという治療ではなく、「熱が出るということは、からだが自らの力で病気を治そうとしている」と考えるのが基本的な考え。からだが訴えている症状を打ち消すのではなく、自らの力で治ろうとする自然治癒力を高めるための薬が処方される。 |
※インフォームド・コンセント
直訳すると、説明という意味。医師が患者に病状や治療方針を説明し、その方法に同意を求めること。個人主義の意識が高いアメリカで生まれ、1980年代半ばから日本でも必要性が認識されている。獣医師との関係を築くためにこの作業は必須。
出典/うさぎと暮らす ホリスティックケア。うさぎと健康に暮らすための部位別マッサージなどが紹介された一冊です。現在Kindle版で読めます。アマゾンからご検索ください。
<うさぎとホリスティック医療②に続く>