今回はうさぎに起きやすい病気のひとつ『膿瘍(のうよう)』、何らかの病気を抱えて発症する病気の症状『斜頸(しゃけい)』についてご紹介します。
前回の記事「その1」も併せてご覧ください。
膿瘍とは?
皮下に免疫細胞、壊れた組織、死んだ細菌などを含む粘液が溜まった膿(うみ)のことです。炎症が起きたり、細菌に感染した際に生じやすく、パスツレラ菌、ブドウ球菌などの細菌が傷口などから皮下に入って増え、腫れている状態になっています。
うさぎの場合、歯根、皮下、関節、骨、関節、眼球後部など、いろんな部位にできることがあります。
特に多いのは歯根の【根尖(こんせん)膿瘍】で、歯根の先端に炎症が起き、膿がたまります。牧草を食べていない(歯の過長)、シニアになって歯並びが変わってくることによって不正咬合や歯周病が起きて発症します。うさぎはよだれが出たり、痛みで食欲が落ちることが多いです。
顔回りの膿瘍は、飼い主さんが「はれている?ふくらんでいるかも?」といった異常に気づいて発見することがあります。上あごの目の近くにできた場合は目が飛び出したり、障害を受けたりします。
膿はクリームチーズのように粘稠性(ねんちゅうせい)が強く、においがあります。進行すると皮膚が腐ったり、骨が溶けてしまうことがあります。また細菌が内臓に運ばれて敗血症になると命にかかわります。
治療は?
太めの針で吸引したり、外科的に切開して膿を出します(拝膿・はいのう)。取り除いた後は患部を縫合します。患部は消毒薬で洗浄し、抗生剤を投与します。
あごや目など、歯の周辺の膿瘍の場合は歯の不正咬合との関連を獣医さんによく調べてもらいましょう。状況により、原因となっている歯を抜歯することもあります。
切開して膿を出しても、またその箇所がふさがってしまうので絶えず拝膿や消毒ができるように管(ドレーン)をつけることもあります。
細菌を培養して抗菌剤感受性テストを行い、有効な薬を選択します。
膿はどんどん出てきますが、たびたび通院する負担をなくすため、飼い主さんがおうちでケアすることが必要になります。獣医さんに拝膿の方法を習います。
膿を出した傷口はふさいでしまわないよう(また膿がたまってくるため再度切開が必要になる)、拝膿と消毒を繰り返します。1日で穴がふさがってしまったり、毛がはえてくることもあるので、ピンセットで毛を取り除いて消毒します(方法はうさぎの状態や獣医さんの指導によります)。
・根尖膿瘍…歯の抜歯や骨の除去を行い、定期的な洗浄や抗生物質の投与が必要。
・皮下膿瘍…内服薬と外科的な処置。定期的な洗浄や長期の抗生物質投与が必要。
※文章だとつらい状態に伝わってしまうかもしれませんが、もちろん飼い主さんのケアは大変なのですが、うさぎにとって処置の痛みは薬で軽減されており、食欲があって、元気に過ごしているこも少なくありません。
予防は?
病気にかかっていたり、免疫力が低下していると、全身状態が悪くなり、膿瘍ができやすくなります。食事・環境・観察を整えることが予防のポイントになります。また、臼歯(奥歯)の定期的な検診やあちこち体をさわってできものがないかチェックをしてあげましょう。
斜頸とは?
「筋肉の異常(筋肉の損傷)」「頸椎の骨折・脱臼」「神経の異常[内耳・前庭部の神経・脳(小脳・延髄)]」などで平衡感覚をつかさどる神経が侵された場合に見られます。首が左右どちらかに傾いたり、眼振(目が一定方向に揺れる)、まっすぐ立てないといった症状が現れます。
原因は①原虫のエンセファリトゾーン(EZ) ②パスツレラ菌などの細菌 ③血栓症や強い衝撃によって頸椎や首の筋肉が傷ついた場合 ④外耳炎・耳をかまれる ⑤腫瘍 ⑥トキソプラズマ ⑦アライグマ回虫 とされています。
①のエンセファリトゾーンは、以前はうさぎの脳や、眼や腎臓に寄生する『寄生虫』によるものとされていましたが、現在は『真菌(カビ)』によるものと解明されています。
お部屋を暮らしやすく変更
斜頸は重度になると、首が90℃に近いくらいに曲がってしまうので食事の介助が必要だったり、寝たきりになってしまうことがあります。注意が必要なのは、まっすぐ歩けず同じ方向にぐるぐると回ったり、横に転がり続けるローリングといった発作が出ているときに、ケージにぶつけて体を傷つけることがあるので、ケージ内に保護用のクッションを置くか、タオルやクッションを入れたキャリーに移してあげましょう。
うさぎの首の状態にもよりますが、食事はできるだけ体を起こしてあげて頭が起きた状態で給餌すると喉通りがよいので範囲を狭められるかごなどにクッションやタオルを入れてうさぎの体を支えるようにします。足元はシーツ・マイクロファイバーの給水マットを敷くとよいでしょう。
治療は?
①症状に対しての対症療法 ②考えられる原因を絞り込み、菌の培養や(EZ抗体)血液検査で根気よく治療と看護を続ける。
症状が落ち着くとうさぎは首が曲がった状態になれてきます。それでも体全体がこっている状態になるので、こわばりをほぐすためのマッサージが有効です(方法は、おくだひろこ先生のうさぎと暮らすホリスティックケア電子版をご参照ください)。
予防は?
元気な時に鼻汁でパスツレラ・血液でエンセファリトゾーンのチェックをしておきます。結果が(+)の時は担当の獣医師と相談して薬を与えます。
予防としては、うさぎを普段からよく観察する、体にさわる習慣をつけましょう。何らか気になる異常が見られたときは早期段階で病院へ行くことをおすすめします。
感染しているうさぎがいる場合、多頭飼いのおうちは、他のうさぎにうつらないように隔離しましょう。
最後に
いつもと違ううさぎの様子に飼い主さんは驚いてパニックになってしまうかもしれません。しかしうさぎ自身もなぜ体がそのようになっているのかわからない状態なのです。ですから飼い主さんこそ頑張って冷静に行動しましょう。夜間の発症でない限りは、すぐにかかりつけの動物病院に連絡して指示を仰ぎましょう。
今回ご紹介した病気・症状は状態が軽度でない限り、すぐの回復は見込めず、飼い主さんとうさぎにとって長期戦・根気のいる治療になります。しかし決して悲観しないようにしてください。同様の病気を持つうさぎに対し、生活ルーティンの中にうまくケアを取り入れている飼い主さんはたくさんおられます。うさぎ自身もその状況に合わせて適応していきます。食べることも喜び、飼い主さんとふれあうことも喜び。いつでも前向きに生きています。それを最大限サポートしてあげたいですよね。
悩んだ時は獣医さんやうさぎ専門店さん、同様のうさちゃんがいる仲間に相談してもよいと思います。うさぎの負担が少しでも軽くなるように食事や運動がストレスがなく、快適に過ごせるようお手伝いしてあげましょう。
協力/うささちゃん、スモちゃん、ぶぶちゃん、清水動物病院(横浜市)、らびっとわぁるど