東京都でありながら大自然の宝庫である三宅島。その環境を生かしてうさぎ専用の明日葉作りをしている農家があるとの噂を聞きました。明日葉が好きなうさぎはたくさんおりますが、なかなか入手困難な野菜でもあります。今回、うさくら編集部は三宅島まで出向き、明日葉の生産農家「西野農園」さんに密着してきました。
三宅島の環境を生かす
西野農園のオーナー西野直樹さんは、関西の水産関連会社に勤務を経て、30代のときに一念発起・脱サラして、三宅島で漁業をするために奥様と移住されました。三宅島は本州から約180㎞沖にあり、飛行機かフェリーでないとたどりつけず、行き来は少々不便です。しかしそこには最高の自然があります。朝からたくさんの鳥がさえずり、海産物に恵まれ、季節ごとに移り変わる美しい自然を堪能できるロケーションに恵まれています。
西野さんは移住早々に漁業資格を取得し、定置網漁だけでなく、刺し網漁、素潜り漁を行い、魚介類や海草などを獲って生活していました。しかし、年々その収穫量が減少してしまいます。「その原因はウミガメの数の増加です。海水温の上昇などによって産卵回数が増えたのだと考えられます。海草がほとんど食べられてしまい、時化も多くなり、漁業はあきらめざるをえませんでした」。
なお、三宅島は富士火山帯に含まれる活火山であり、20年から60年の周期で噴火をしています。近年では2000年に噴火し、島民が4年半もの間、島外へ避難されていたのは記憶に新しいところです。それまで肥沃だった島は噴火後には一変、火山灰が山積しました。島の生活をあきらめてしまう住民や廃業してしまう水産加工業者なども少なくなかったそうです。
西野さんも長きに渡る避難生活を余儀なくされていましたが、島での生活が再開するとまだできることがあると考えて、戻ることを決めました。新たに手がけたのはハウス栽培で行うカサブランカ(ゆり)などの花き産業。そして市場を知っていくと、「これだ!」と感じたのが三宅島の特産品「明日葉」でした。伝統野菜でありながら生産農家も高齢化などによって減少していました。
昔から地元の人々に愛されている明日葉の持つパワーに可能性を感じて、三宅島の温暖な気候と黒潮のミネラルがたっぷり含まれた土壌を生かし、明日葉専用の農園を作ることにしました。農地には山中の風通しのよい、半日陰を選びました。日光量や周囲の樹木も加味して生育の状態を見ながら、現在まで寝る間を惜しんで、日夜明日葉作りに励んでいます。
明日葉のパワー
明日葉は日本原産のセリ科。もともと伊豆諸島などの暖かな地域の海辺に自生する植物です。
「明日葉は『今日摘んでも、明日には新芽を出す』と言われるほど、生命力が強いです。三宅島をはじめとした伊豆諸島では昔から大事な栄養源として、住民に親しまれています。おひたしや天ぷら、サラダにして毎日食べている島のお年寄りはとてもお元気です。そして明日葉には豊富なミネラルと「カルコン」という特有の栄養成分が含まれています。このカルコンがすごいですよ」と西野さん。
『カルコン』とは聞きなれない成分ですが、明日葉の茎をカットするとにじみ出てくる黄色い液体に含まれていて『黄金のポリフェノール』とも呼ばれています。抗菌作用、免疫力アップ、体をさびつかせない老化を防ぐ、血流を改善するなどの働きがあることで昨今注目されています。つまり明日葉はサプリメント以上のパワーフードなのです。
明日葉と一般の野菜を比べてみた
うさぎのために生産中
西野さんは現在、明日葉農園を数ヶ所所有しています。雑木林の木々を自ら切り倒し、開拓して農地にしています。落葉広葉樹のオオバヤシャブシやハンノキのそばで木陰を作り、落ち葉を肥料にしています。ほかには脇に緑肥を植えるくらいで、明日葉の自生力を頼りにしていて、完全無農薬で生産しています。
開業当初は当然のことながら人用に明日葉の生葉と乾燥葉、原料用の粉末を生産していた西野さん。しかし、あるときうさぎが明日葉をよく食べるという話しを耳にします。
西野農園では明日葉生産にあたり、作業用の機械やスタッフに投資をしていることからもっと販路を広げていきたいタイミングでありました。西野さんは本州に出向き、うさぎ専門店で話しを聞いてみることにしました。すると「なかなか手に入らないが明日葉は香りもよいので、うさぎが好物なことが多く、栄養価も高いので興味がある」という好反応が得られたのです。
一昨年より収穫時期になると週に1回、ツヤツヤの柔らかい新芽だけを朝摘みして、うさぎ専門店や顧客に発送をスタートし、たくさんのうさぎに喜ばれています。
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